柔らかな心と身体

渡辺克敬(わたなべ かつゆき)

2014年12月03日 23:40

 寒さが厳しくなると、血行が悪くなりあちこち痛んだり体調が悪くなる方が多くなります。血の巡りが悪くなる、というのは人の体にとって甚だ困った事です。頭の中で血の巡りが悪くなれば、脳虚血という状態になります。血管が詰まって、血行が途絶えてしまえば脳梗塞です。日常生活の中でも、そうした事はよくあります。正座で足が痺れるのは、足への血行が悪くなるからですし、霜焼けも末梢の循環が悪くなるからです。
 
 身体の硬い人・筋肉の硬い人というのが結構います。筋肉の中にも血管が走っていて、硬い筋肉は血管を圧迫します。血液の供給が悪くなるうえに疲労物質の除去も滞ります。そうすると、それだけでも肩こりや腰痛として自覚症状が出ることがあります。
 もともと各関節や筋肉が硬い人もいますが、それ以上に多いのが、身体を硬くしている人です。
筋肉は安静にしている時でも一定の緊張を保っています。ところが必要以上に身体に力を入れている人、身体の余分な力を上手く抜けない人がいます。例えば、リラックスしている状態で、誰かに手首を持ち上げてもらって、肩の高さまで上げてもらいます。その状態で出来うる限り肩の力を抜きます。自分の力はゼロにして他人に支えられて手が挙がっているようにしておきます。そこで、肩の力を抜いたまま、という状態を維持したまま、支えてもらっている手を外してもらいます。力が抜けたままなら、手は落ちるはずなのですが手が落ちないで空間に留まることが多々あります。
 治療でベッドに俯せになって頂くことが多いのですが、その状態であっても肩に力が入っている患者さんが随分といます。そうした方の多くはご自分が肩に力を入れたままという事に気づきません。肩こりを訴える患者さんの多くは、そのように自分自身が力を入れすぎるせいで肩が凝っている事もあるようです。

 太極拳を指導する時に、まず、大切な事として教えるのは、身体をリラックスさせて動くことです。余分な力を抜く・リラックスするというのは簡単なようで意外と難しいことです。「もっと肩の力を抜いて!」
というのは、様々な局面で比喩的に使われたり、スポーツの場面で文字通り肩の力を抜いて、という意味でも使われます。緊張すると肩に不要な力が入ったり、肩が上がったりするのです。その状態ではスポーツでも十分な能力が発揮されませんし、知的活動も適切に行われなくなります。身体の余分な力を抜く、というのは本当は非常に難しいことです。難しい理由の1つは、難しいという事が理解されていないことと、余分な力を抜く、という訓練や経験をする機会がほとんどないことです。

 面白いことに、身体の硬い人は頭も固いことが多いようです。太極拳の状態が芳しくない時、身体が固いせいよりも、頭が固いのではと思うことがあります。柔軟性のある身体は健康ですし、融通の利く柔らかな心は健全です。柔らかさというのは、日歩刻々と変わる環境に適応できるという事です。年を取るという事は色々な物が固くもろくなるという事です。赤ん坊のように心身ともに柔かいというのは限りない可能性を秘めているという事です。では、大人になりきってしまった人はどうすれば良いのでしょうか。
 よく言われるのは、何にでも好奇心を持って向かうという事です。興味のある事柄にはわくわくして向き合います。変に緊張する事はなく、楽しさが心を満たします。
 ニコニコして人生を楽しんでいるような人は、決して身体を硬くして緊張していることはありません。
誰にでも出来る簡単なことではないですが、その気になれば誰にでも出来うることです。
 日々好日、という感じで生きていきたいと思う今日この頃です。

関連記事