太極拳を続ける人は、頭がいい?

渡辺克敬(わたなべ かつゆき)

2015年01月21日 23:44

 足を前後に肩幅くらいに開いて立ってください。両手は大きな木を抱いているような感じで、胸の前で丸を作って上げておきます。さて、ここからです。この状態を維持できる最低限の力だけになるように、身体の中で力みがある所を探して、少しづつ力を抜いてリラックスしていきます。この状態で、今、自分の前から強い風が吹いてくると想像します。かなり本気でリアルなイメージを持って想像します。自分の体はもちろん、腕や脚にも強く風が当たって、後ろに押されているとイメージします。今までの経験を総動員して、体に当たる風の感覚や圧力を感じるようにします。こうしていると次第に体が後ろに押される感覚がはっきりしてきます。強い風に逆らって立っている、全身に力みのない状態で、そうした感覚が得られれば成功です。これが全身を強調させている力の出し方の一つの方法になります。この状態を維持したまま軽く両手を前に押し出せば、全身をうまく使って両掌から力を出す感覚になります。

 太極拳の型の練習の1つの方法は、自分の力で動かないこと、すべての動きをコントロールして意識的に動くことです。たとえば、自分は文楽の人形になったと想定して動きます。自分の肉体の後ろに本当の自分がいて、その後ろにいる自分が肉体を動かす本体と考えます。すべての動きは、きちっと運動線が決まっています。どんな動きも無意識であったり惰性での動きはない訳です。腕を動かす時、どこが支点かどこが作用点かすべて決めてやります。動きの1つ1つが「ここからここまで、このように動く」
と明確に意識して動きます。この状態は、身体はリラックスしていても、心は一定の緊張感を保ったものです。型の最初から最後まで意識の力を目いっぱい使い続けます。こうした練習方法は、かなり精神的に負担になります。しかしこれをやっていくと、動きの質が変わってきます。今まで動かなかった筋肉が少しずつ動き出すようになります。体の中で力の流れるラインが実感できるようになります。いわゆる勁道がはっきり自覚できるようになります。

 太極拳の練習は、このように意識を操作する、細かくイメージを使うという事が求められます。ですから、言ってみれば、米粒に文字を書いていくような集中力が求められます。そうした意味では、身体よりも頭を使う作業の比率が高いといえます。 
 という事で、太極拳を長く続けられるような人は、ある意味で頭が良いといっても過言ではありません。