上手くいけば師匠のおかげ、失敗したのは自分のせい

渡辺克敬(わたなべ かつゆき)

2015年01月15日 23:45

 「先生、この技は危ないですね」 「ばかやろう」
わざわざ、先生が教えるような技は、もちろん危険な技ですね。

 「この技は親指の先端をこう固定して、手首をさげると・・・」 「本当だ、できた」 「ばかやろう」
もちろん先生は本当の事を言っている訳ですから。

 「この技は使いやすいです、機会があったら外で使ってみて下さい。」 時々先生はそのような物騒な事を言いました。 外で使うというのは、他流派との交流や、不本意ながらの自衛行動の意味です。 ある時、「先生、この技では避けきれず、殴られてしまいました。」という話が出てきました。先生が、どう避けたかと問うと、その動きは、先生が正にそうやってはいけないという動作が入っていました。
またある人が、職務質問をされて、逃げようとしたところ(何も悪い事はしていなかったのですが)、警官に取り押さえられて、腕を背中に捻じられてしまった。という話が出てきました。その人はそうした状況での返し技が得意だったので、思わずするっと抜けてその動きのままいつもの習慣で相手を投げてしまった、という事でした。このままでは後々厄介なので必死で逃げて逃げ切ったという事でした。
先生は褒めるに褒められず、困ったような顔で笑っていました。

 「上手くいけば、私のおかげ。失敗するのはあんたが悪い」 と先生は良く言っていました。
太極拳のような実用的な技術は、その成果・結果が全てです。趣味で何となく優雅な踊りのようなものをしている、という人の場合もあるでしょうが、それはまた別の話です。
 健康法が目的であれ、武術的目的であれ、結果が出なければいけません。教える方はきちっと教え、習う方も真摯に取り組んでこそ、良い結果が出てきます。人に物事を教えるというのは非常に難しい事です。特に一般の人にあまりなじみのない太極拳のような技術というのは尚更です。
 まだまだ、先生の高みには登れないので、「上手くいけば師匠のおかげ、失敗しないよう教えるは師匠の務め。」 と戒めて指導する今日この頃です。

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